2018年5月3日に見た夢の話

 

 

 夜明けごろの夢のなかで僕は若くなっている。

 

 女子校なのか、女子大なのか、とにかく女性だけの学び舎の文化祭に足を運んでいる。柔らかな日が差し込む教室で、中学時代に密かに恋心を寄せていた女の子と向かい合わせに座っている。しなやかな笑顔は相変わらずで、僕は「君のことがずっと好きだったんだ」と打ち明けたいけれど、胸が爆発しそうで言葉が出てこない。

 

 やがて中学時代には一度も話したことがない女の子が現れて「私はパナソニックに就職が決まったよ」と言い、小学生時代に僕に告白してきた女の子は「私はアナウンサーになるの」と教えてきた。僕たちはもうすぐ社会に出るということだろう。

 

 僕はストライプの襟つきシャツに、紺色のパンツを履いている。中学時代に片思いをしていた子が「レイナとか派手な子たちと付き合っているのに自分のかっこうは地味なんだね」と言ってきた。夢のなかでも現実の世界でもレイナという名前の知り合いはいない。僕は曖昧な笑いではぐらかし、「うちの文化祭にも来てよ。俺の絵が飾られるから」と伝える。

 

 数日前、黒縁の眼鏡にあごひげをたくわえた校長が、僕の書いた鉛筆画を見て、「これはおもしろいね。色をつけて文化祭に飾りなさい。美術の先生にアドバイスをもらうように」と勧めてきた。

 

 一羽の鳥が空を飛んでいる絵だ。右下に川が流れ、その外側に一本の木が立っている。川はこちらから流れているのか、あちらから流れてきているのか明らかではない。木の上の部分は紙の中に収まっていないから、どこまで伸びているのかわからない。実のところ、雑誌の広告で見た写真を書き写しただけの絵だったけれど、僕は黙っていた。

 

 次の場面で、丸めた紙を手にした僕はコの字型の校舎を走り回っている。美術室がどこにあるか知らないからだ。地下3階にはなかった。エントランス近くの事務室で、眠たそうにパソコンに向かう女性に尋ねると、2階にあるという。「そんなことも知らないの?」という言葉は聞こえないふりをした。

 

 ようやく見つけた美術室に入ると、髪の毛もひげも白髪の美術の先生が僕の姿を見てすぐに「校長が言っていたのは君か」と言ってきた。僕は何も言わずにうなずく。「ちょっと待ってなさい。この仕事が終わったら見てあげるから」。僕はいまここで何かを言ってほしかった。待つことができず、美術室から去った。チャンスを自分で手放した。あの子に見せようと思っていた絵はもう飾られることはない。

 

 文化祭当日、僕にはやることがなかった。あてどもなく校舎を周るしかなかった。ダンスに興じる同級生たち。ギターやベースを奏でるクラスメートたち。書道パフォーマンスで拍手をもらう男の子たち。みんなの姿がまぶしすぎて、僕はひとり泣き出してしまった。

 

 めそめそと涙を流す僕のもとに、ほおまで青い無精ひげを残す先生が近づいてくる。「どうしたんだ?」と尋ねられた僕は、「僕はみんなみたいに何かに真剣に打ち込んだ経験がないんです」と声を絞り出す。実際、高校時代の僕はサッカー部をやめて、抜け殻のような時間を過ごしていた。無精ひげの先生は「多かれ少なかれ、みんな同じようなものだよ」となぐさめてくれた。校長先生も美術の先生も優しい言葉をかけてくれた先生も、みんな眼鏡をかけていた。

 

 無精ひげの先生が授けてくれた言葉がわかったようなわからないような気分のまま、声を出して落涙する自分を自分が見つめるような感じで夢が終わっていく。浅いまどろみのなかにいる僕はこの夢には何か意味がありそうだ、起きたら書き留めておこうと思っている。まだ夢を見ていたいから目はずっとつむっていたけれど、あってほしかったかもしれない物語の続編は上映されなかった。

 

 迷路に迷い込んだみたいな感覚で目が覚める。起き抜けの煙草をくゆらせていると、「答えがないならないでいいんだ」という歌の一節がゆっくりと頭のなかを横切っていく。

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