「1」という数字にこだわったわけではないけれども

 

 我が子ながら、結果を求めてこんなふうに必死の形相を浮かべる息子がかっこいいな、と思ってしまう。

 

 自分で自分がかっこいいと思えるかどうかはとても重要だ。ダサいことはやりたくない。「かっこいい」も「ダサい」も、色も形も匂いもないものだから、自分で決めるしかない。それでいいと思っている。

 

 3年生のころに息子が見せてくれたように、自分が「必死」かどうかもとても大切だ。「必死」とは言い換えれば、懸命であること、ひたむきであること、そして一途であること、だと思う。決してスマートな印象はないけれど、僕にとってはその姿勢こそがかっこいい。「必死」をもう少しずらすと「夢中」になる。だから、やっぱりかっこいいという感覚で間違っていない気がする。

 

 2014年に13年勤めた会社を辞めて一人でやろうと決めたとき、屋号に「ナウヒア」という言葉を選んだのにも、そういう理由があった。「いま(Now)」「ここ(Here)」を真剣に生きたいという思いがあった。「いま」と「ここ」がつながった瞬間、「どこにもない場所(Nowhere)」になってしまうというなんだか矛盾めいた感覚も気に入った。「夢中」にも、どこかそんな雰囲気がある。

 

 「ナウヒア」は「いずれそのまま自分の会社の名前にしてやろう」と考えていた。会社を辞めてから4年。できることが増えたし、信頼してくれる人が多くなってきた実感があった。2018年に入って「そろそろ法人化しようか」と思い、夏には心を固めた。登記日は10月11日に決めた。大安だったし、「1」という数字が並んでいるのも気に入った。「11」には「一歩一歩」という感じがあるし、「十一の心」と書いて「志」になるという話を聞いてひざを打った。他にも「1」に感じた要素はいろいろある。でも、それをずらずらと説くのはなんだかダサい。

 

 「志」と言えるほど確固たるものかどうかはわからない。ただ、会社を立ち上げるにあたって、僕は「人や世のなかに役立つかどうか」を重要な判断基準にしようと思った。かかわる人すべてがハッピーになるような仕事が理想だ。「お金」や「損得勘定 」ばかりを考えているといずれこころが疲弊してしまうし、子どもが大きくなるにつれて「人や世のなかに役立つ」ことをしたいという思いが強まってきた。それから、「自分が楽しめるかどうか」も重視したいと考えている。最近「働き方改革」という言葉をよく耳にするけれど、僕はそれよりもっと「生き方」を大事にしたい。僕ができないことができるナウヒアの仲間たちの存在も大切にしたい。

 

 お父さんは「かっこいい」のか「ダサい」のか。「お父さんは社長になるよ」と言って以降、英語学習の原稿を書いたり、取材のために薬のことを必死に調べたり、声優さんの情報を調べたり、サッカーの記事の翻訳をしたり、勢いあまって買ったウェブデザインの本を読んだり、ホームページをつくったり、ダイニングテーブルでいろいろとしていると、隣に座っていた娘が「お父さんってなんかいいよね。いろんなことやってるし、なんか楽しそう」と言ってきた。ああ、これでいいのかな、と僕は思いながら、2018年10月11日に新たな船出を切った。

 

株式会社ナウヒア 代表取締役  

菅野浩二  

 

  

ナウヒアの取り組み