社名が刺繍されたネクタイ

 

 菅野は2019年10月、ベトナムのホイアンで社名を刺繍で入れたネクタイをつくってきた。ホイアンは世界遺産の街であり、縫製の街としても知られる。採寸した翌日にはオーダーメイドのスーツが仕上がっている。

 

 創立当初に特化していたサッカーのみならず、いまやスポーツ事業を手広く展開する株式会社フロムワンを2014年の夏にやめた。少しのんびりしたあとの2015年の仲春、ある大手出版社の面接で「いずれ何をやりたいですか?」と尋ねられ、「編集プロダクションを立ち上げたいです」と答えた場面を覚えている。その時にはもう、まずは「NowHere(ナウヒア)」を屋号にし、いずれ会社の名前に据えようと考えていた。

 

 編集者としてもライターとしても、あるいはビジネスパーソンとしても経営者としても「いま(Now)」「ここ(Here)」で夢中になりたいという気持ちがあった。だから、目下のところ明確な事業計画や売上目標を立てたことはない。コロナ禍の2020年4月上旬のいまは、「さしあたってホームページ制作事業を軌道にのせたいな」という思いがある。

 

 「NowHere(ナウヒア)」という名前に荘子の考え方が反映されていると知ったのは後日談。中国戦国時代の思想家は「将らず迎えず応じて而して蔵せず」という言葉を残している。「おくらず むかえず おうじて しかして おさめず」と読み、過去を悔やまず、まだ見ぬ未来に悩まず、いま目の前のことに向き合っていく、という意味だ。思いがけず、社名に込めた理想の生き方にぴたりと重なる。

 

 取材の際に時々「NowHere(ナウヒア)」と刺繍されたネクタイを首に巻いていく。結果、首尾よく「いま(Now)」「ここ(Here)」を切り盛りできて、誰かが喜んでくれればうれしい。

 

ナウヒアの取り組み